まばたきの隙に

数行に、そのままに、

泡沫の幸と永久の過ち 《16・それだけのこと》 完結

《十六・それだけのこと》

sideB

 

自分がこんなドジだとは思わなかったよ。ほとほと自分に嫌気がさす。まさか歩道橋から落ちるとはなぁ。笑うしかないだろもう。俺は嬉しそうに下で待つ顔を見て、心だけじゃなく足元まで揺れてしまった。すべて終わったんだなぁ。皆馬鹿だと思うだろうな。こんなあっけない…。俺もそう思うさ。でも神様の優しさなのか全然後悔はしてないんだ。あいつが泣いているのが見えた。きっと俺にひどくフラれるよりずっと辛い結末になっただろう。愛する人を失いまさしくどん底だろう。そしてきっと一生俺を忘れない。これは、それでいいんだ。

明るさに憧れたことなんかただの一度だってなかったさ。

 

                                  春海 晶穂

                              

泡沫の幸と永久の過ち 《15・夢のよう》 

《十五・夢のよう》

sideA

 

君って黒とか紺色とかより爽やかな明るい色が似あうって思ってたけど白は似合わないんだね。初めて知ったよ。今日は最期になったのに初めてばっかりだわ。彼女も駆けつけたのよ?何故かね。あなたとは一夜だけだったとわざわざ言いに。泣いてた。女って怖いのよ。あなたがあの日、女の人と過ごしていたことを初めて知った。あなたが白が似合わないのを始めて知った。あなたのお父さんと妹さんを初めて見た。そして初めて救急車に乗った。君との初めてはいつも楽しいことばかりだった。そのつけが急にきたのかしら。これからどうしたらいいのか全然分からないの。急に君を、愛する君を失って。

指を見つめ、絡め、伏し目がちなその瞳を確かめるように合わせ、腕、肩、鎖骨から頬へとなぞるように撫で、最後に微笑んでくれる…そんな君の温かさを1番愛してたから。」

                              

泡沫の幸と永久の過ち 《14・加速した日々》 

《十四・加速した日々》

sideB

 

驚くと思う。俺はあの日帰ってきて罪悪感からなのかな。おまえの頬にキスをして気づいた。好きだと。嘘だ。分からないんだ。好きになるわけないのに。どれを演じていたんだ。最初は。今は。どれを。誰を。…もう分からなかった。でも確かなことは今更戻れないという事。乱れた心はもう時間がないように感じられた。もう少しで1年の記念日だと嬉しそうな様子を思い出す。その日だと決心した。その日まで。お前が俺を手放せないほど愛するように。そしてあの歩道橋をおりたところで終わりを告げよう。

                              

泡沫の幸と永久の過ち 《13・あまりに急なことだった》 

《十三・あまりに急なことだった》

sideA

 

本当にどうしてこうなったんだか教えてよ。私たち何かした?…神様って本当にひどいのね。君もたった一度の過ちであんまりだって思うでしょう?でもそうね、私に何か不満があったからあの日帰らない選択をとったんだよね?君ってあんまりに優しいから何がそこまで不満だったのか分からないよ。ちゃんと教えてくれなきゃさぁ。あぁ、そういえばさっき君のお父さんと妹さんに会ったの。妹さん驚いた顔してた。信じられなかったのでようね。私も同じだったわ。

                              

泡沫の幸と永久の過ち 《12・それだけの事》 

《十二・それだけの事》

sideB

 

「俺彼女いるけど…」「良いですよ。」たった二言だけ。少し歩いてホテルに着いた。だんだん思考が冴えてきて、彼女のシャワーの音の中、自分に自分で言い訳をしていた。ぐるぐる回る頭とはよそに、ガキっぽいと思ったがあいつが望んだ細身の指輪と、腕枕の時に痛いとあいつが言った腕時計をかばんにしまっていた。それを「まめなところも結構好きですよ。」なんて言われた。

                              

泡沫の幸と永久の過ち 《11・どんな理由》 

 

《十一・どんな理由》

sideA

 あれから君がちょっとだけ変わった…気がした。例えば、帰宅が少し遅い。とか、「考え事してた」が少し増えた。とか。でも確たる証拠は無く、なにより週末は今までより甘く、優しく、私のために過ごしてくれていた。すべて繁忙期のせい。それで納得できたの。でもあの愛の日々は1度の過ちの罪滅ぼしだったの?彼女は私とのこれまでを振り切る程の良い女だったの?なにか理由があったと思いたい。理由が…。

                               

泡沫の幸と永久の過ち 《10・笑ってくれよ》 

《十・笑ってくれよ》

sideB

 あの日もいつも通り仕事をしてた。繁忙期に入っててただただ忙しくて疲れてたんだ。終わった頃には判断力が少し鈍るくらいに。言い訳だけどさ。あの頃、燃える熱はいつまでも冷めない程感じてた。バカ騒ぎするおまえを横目に復讐の作戦を考えていた。卒業したらすぐに実行できるように。でも作戦を実行するまでに時間をかけすぎたのかな。元気になる妹に毒気を抜かれていったのかもしれない。それで…。完全に言い訳だな。笑うしかないほどの。…それで「終電いっちゃいますね」ってまだ急げば間に合いそうな電車のことを少し俯いて言う同僚にグラついた。自分にもこういう事があるんだーなんて別の人のことみたいに感じて、ちょっとくらい自分のために恋したっていいよなって。こんなの恋でもなんでもないのに。多分おまえとの事は本当じゃないって思っていたかったからなんだ。